「坂内舞の乱数遊び」を通じて伝えたかったこと
作中に出てくる坂内舞は、どこにでもいそうな普通の少女でしたが、果たして彼女は豹変したのか、それもと、社会の方が一変したのか、その狭間を彼女の心理描写に託して描きたかったというのが、本作の狙いです。
1つは、日常に潜む何気ない行いが知らない間に犯罪となってしまうことへの警鐘です。 これは、本作タイトルにもなっていますが、日本のマイナンバーは、数字や数列自体に意味を持たない「乱数」です。 しげしげと乱数を見つめても、住所も生年月日も分からない。機械を介せば、特定の個人を割り出せるかもしれませんが、そんな機械に日常生活で触れることはありません。 何ら情報性を持たない12桁の番号を手に入れることで、旧来法より懲役も罰金も倍加させた量刑上限となっている。しかし、意中の相手のことを深く知りたいと思う恋慕の念は、いつの時代も変わらない。 タブーというものが、いかにその時代やその社会の価値観に左右されるかを伝えたかったという狙いがあります。
もう1つは、当たり前と思い込むことへの警鐘です。 これも、常識や暗黙の了解とされている考え方や知識を背負って日頃暮らしていることに対して、一石を投じたいという願いです。 誤解と偏見は、セットで語られることが多いですが、いずれも「正しいとされている当たり前の価値観」を尺度としています。しかし、正しさ、もっといえば確からしいことは、流転していきますから、その意味では、誤解も偏見も、正しい価値観なるものがなければ存立し得ないのかもしれません。
マイナンバーカードには、氏名や顔写真等の他、男女の別が記載される仕組みととなっていますが、坂内舞とは誰であり、何者なのか。その問いを読者の皆さまに微笑みながら伝える使者であり、既存の価値感に従い動く現代社会の化身であったのではないか。そのように感じていただけると幸いです。 是非、一読二読していただけますと幸いです。(和内太郎)
Photo by まさ
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